#2019年上半期の本ベスト約10冊

「これほどの作家を知る幸運を噛みしめてほしい」

 ーー千街晶之(『殺人症候群』解説より)

 今さら上半期のベストを挙げるのもおかしな話ですが、あまりにも読めていない下半期のモチベーションを高めるべく、かなり雑な感想を書きました。要約すると挙げた作品は全部好きです。

 

(順不同で、読んだ順に並べています)

 

 リチャード・ニーリィ『心ひき裂かれて』(角川文庫)

 2019年上半期ベスト。かつ2019年暫定ベスト。「好きな人は好き」いう言い回しがありますが、そりゃそうじゃない? 好きなんだから。

 

 ビル・S・バリンジャー 『赤毛の男の妻』(創元推理文庫

 途中で予想こそ付いたものの、最後まで楽しめました。『煙で描いた肖像画も好きだけど、復刊するならこっちだと思います。まさに今こそ読まれるべき作品です。バリンジャー は「サスペンスの魔術師」と評されますが、恋愛小説の技巧派だと思います。「追跡」は恋愛!「追う者」と「追われる者」は恋人!

 

 中町信『天啓の殺意』(創元推理文庫

 好き。ある方におすすめの中町作品として教えていただきました。中町作品はいずれ全作読みたいです。

 

 陳浩基『世界を売った男』(文春文庫)

 その頃「華文ミステリを読んでいこう!」みたいなことを考えていて、その手始めに読んだ気がします。結局『元年春乃祭』「1797年のザナドゥくらいしか読めていない…… それはともかく、良い作品だった。翻訳ものを「日本語で書かれたような読みやすさだった」というのは(たとえ褒める文脈でも)あんまり好きじゃないのですが、これは使いたくなるなと思いました。日本のミステリから影響を受けた云々を抜きにしても、「古畑任三郎」や「青島刑事」というワードが登場したりしますし……

 

 辻真先『仮題・中学殺人事件』(創元推理文庫

 この手の作品には凄く弱い。心の柔らかいところにぶっ刺さりました。理想の青春ミステリの一つだと思いました。青春とは◯◯◯◯◯◯です。

 

 宮西真冬『友達未遂』(講談社

 新刊。一番好きなメフィスト賞作家は誰かと訊かれれば、迷わず「宮西真冬」と答えます。唯一リアルタイムで追っている(というか、追っていきたい)メフィスト賞作家かもしれない。全寮制女子校にいた頃に思いを馳せたくなる……

 

 泡坂妻夫『湖底のまつり』(創元推理文庫

 なぜ入れたのか記憶にないけど、最後の最後に入れたことは憶えている。もっと手堅く仕上げられた作品もあるだろうなと思いつつ、名状しがたい愛着がある。

 

 葉真中顕『W県警の悲劇』(徳間書店

 新刊。先に「交換日記」本格ミステリベスト 002』で読み、良かったので手に取りました。やはり面白かった。警察小説といえば(そういったものに無頓着な自分から見ても)結構危ういジェンダー観の作品が多い印象だったのですが、日々アップデートされているのだなと感じました。ただ、男性優位の警察組織における女性たちを描きながら、そのことを登場人物より一つ上の視点で認識している(もしくはせざるを得ない)読者に対してツイストを効かせており、却って拗れてしまった部分があると思わないでもありませんが……(ミステリで痴漢を扱う際になぜか冤罪がセットになりがち、みたいな)(的外れな喩えかもしれない)。何はともあれ、帯の「警察小説×どんでん返し」という惹句に偽りありません。ドラマ化にも驚きました。

 

 ポール・アルテ『第四の扉』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 我ながら無粋な理由ですが、芦辺拓氏との対談イベントに参加したくて読みました。アルテ作品はおろかカー作品すらも読んだことがなく不安でしたが、すごく良かったです。カーも年内に一冊くらい読んでみたい。

 

 その他長編・短編集

『レイチェルが死んでから』:新刊。姉と姉の犬を殺された妹のおはなし。ドキドキよりも、ヒヤヒヤした。『償いの雪が降る』:新刊。死刑囚取材もの。主人公が思いのほか行動的だった。弟くんがかわいい。『その雪と血を』:12月25日に読むべき。『蜂工場』:何があっても日常を粛々とやってゆくフランクの気概が感じられた。『満月の泥枕』:絶妙なバランスの構成。関西弁が心地良かった。『あやかしの裏通り』:雰囲気作りが抜群に上手くて、ぐいぐい惹き込まれた。『お人好しの放課後』:眩しいくらいに直球の学園ミステリ。とくに「お姫様たちの文化祭」が良かった。久しぶりに良い学園祭ミステリが読めました。もっと学園祭ミステリが読みたい。

 

 短編/短篇

舞姫:『ベスト本格ミステリ 001』収録。事件の自体はコンパクトにまとまっているけれど、結果的には印象に残った。「夜半のちぎり」:『新鮮 THE どんでん返し』収録。こういう作品を書く作家だとは思いもしなかった。じっくりと噛み締めたくなる良作。「目羅博士」「人でなしの恋」:『江戸川乱歩名作選』収録。「押絵と旅する男」「陰獣」が目的でしたが、想像以上にこちらの二編が好みだった。もちろん目当ての二編も良かったし、「石榴」「白昼夢」も好き。「コニャック殺人事件」:『赤髯王の呪い』収録。(実際に人を殺すときにこのトリックを選ぶかどうかはともかく)好き!「バンガローの事件」:『ミスマープルと13の謎』収録。他の収録作にぴんと来なかった分、鮮烈な印象。クリスティはほとんど未開拓なので、いずれは本腰を入れて読みたい。「砂漠を走る船の道」:『叫びと祈り』収録。あざといなと思っていたら、素晴らしいホワイダニットにやられた。「大女優の右手」:『ルピナス探偵団の当惑』収録。良かったです。

 

 再読

「犭」:『鬼の跫音』収録。大好き。これまた理想の青春ミステリ。「監獄舎の殺人」:『本格ミステリベスト 002』収録。『刀と傘』の発売当時に一度読みました。「そして、佐賀の乱」の彼らを踏まえて読み返すと、また違った景色が見える。『倒錯の死角』:上半期に読み返した折原作品の中で、ひとつ挙げるならばこれだと思いました。死ぬほど好きな作品。

 

 以上。まじで雑で、すみません。

 

心ひき裂かれて (角川文庫)